受賞者インタビュー
Q. どのようにして絵を勉強されましたか?
A. 絵の勉強をしたことはありませんでしたが、小さい頃から絵を描くことが好きでした。そして、物語を作ることも大好きで、それらを家族からとても褒められていたことが原体験としてありました。
Q. 今までに絵本を書かれた経験はあったのですか?
A. 学生時代には何作か書いていましたが、大学を卒業して社会人になってから、書き始めの一歩をなかなか踏み出せずにいました。絵本を書きたい気持ちは心の中にずっとありました。約20年ぶりに書いたのが、この「しろくまがきたぞ!」です。
Q. 「こころの絵本大賞」への応募の動機を教えてください。
A. 無名作家の絵本を一般の書店流通にのせることが出来たとしても、多くの子供たちの元に届けるのは、かなりハードルが高いだろうと思っていました。「こころの絵本大賞」であれば、別の流通ルート(お寺や仏教系幼稚園等)で広く読んでいただけるということが分かり、無名の私が最初に挑戦する絵本コンテストはこの賞しかない、という思いに至りました。
Q. 「しろくまがきたぞ!」のシナリオをどのようにして思いつきましたか?
A. コロナの影響で子供たちと遊ぶ時間がこれまで以上に増えました。屈託なく元気に遊び回る子供たちの姿を見ていた時に、創作のヒントをもらいました。本作は“鬼ごっこ”を題材にしています。鬼ごっこは、一人の子がずっと鬼をやり続けても、誰からも追いかけられず全く鬼にならない子が出てきても、非常につまらなくなります。そんな時、この遊びを楽しくしたい!という子供の本能が働くのか、わざとゆっくり走ってみたり、追いかける相手を変えてみたりと、自然に鬼が交代していく様子がとても面白いと感じていました。「しろくまがきたぞ!」の子供たちは、鬼が泣いてしまうまでそのことに気づきませんでしたが…。この絵本を読んでくれる子供たちには、ちょっとだけでも友達の気持ちを想像してみるとその遊びがもっと楽しくなるかも知れないよ、ということを伝えたいと思って書きました。
Q. 書く上で気を付けたところはありますか?
A. 場面転換を出来るだけ軽快にして、「読み聞かせ」に最適なテンポを作ることを心掛けました。また、デジタルで制作している為、絵の具を使ったスタンダードな絵本ではないことが、どのように評価されるのかが少し心配でした。
Q. 今後の絵本創作活動をする上での展望を教えてください。
A. 【子供との共感】をテーマに、現代の子供が読んでも、何十年前の子供が読んでも、何十年後の子供が読んでも、「あるある!」と楽しんでもらえる絵本を書いていきたいです。
「第6回 こころの絵本大賞」審査経過及び講評
波賀 稔(鈴木出版編集長)
第6回「こころの絵本大賞」の応募総数は昨年並みの145編でした。9月2日と3日の二日間で全編に目を通し、第一次審査通過の22編を選出しました。応募作品の完成度は年々レベルアップしているように思いますが、今回の一次審査を通して、主として一次審査を通過できなかった作品についての感想を述べてみたいと思います。
まず、絵本の画面について。絵本は、左ページと右ページの2ページ分で一見開きという表現をします。本文13見開きというのは、左右2ページ分の一枚絵が13枚ということです。表現の効果として、見開きページを左右に振り分けて、二枚の絵にすることもありますが、基本的には、一見開き一枚の絵で場面を設定してみてください。そうすると、最適な場面選びができるようになると思います。
お話については、言いたいこと、書きたいこと、テーマはよくわかるのですが、それをそのまま表現されている作品が目立ちます。報告書や絵日記になっている絵本も目立ちました。書きたいことをストーリーに組み込んでお話を作ってみてください。
文章も大事にしてください。幼い子の絵本は読み聞かせが原則です。出来上がった作品は自分で声に出して読み、読みやすいかどうか、判断してください。そのためには、漢字を使わず、すべて平仮名で表現してみてください。それが耳から入ることばです。漢字だと理解できる語句も、平仮名するとわかりにくい語句は、わかりやすい言葉に変えて、文章を作ってみてください。
そして、絵本は絵と文字が一体となって画面を構成します。文字の入る位置を考えて絵を描いてほしいと思います。絵の大事な部分、例えば主人公の顔に文字が入っていたりすると、絵の良さを壊してしまいます。文字を絵の中に入れる場合は効果的に。また、文字が乱暴な手書きで入っていたり、絵と文字のバランスがちぐはぐだったり、内容はともかく、見た目に完成させて応募してほしいと思います。
タイトルも重要です。タイトルを見たら内容が彷彿するようないいタイトルをつけるのも審査通過の条件といえるかもしれません。
さて、一次審査を通過した22編は、9月15日に、児童文学者の西本鶏介先生、絵本作家の藤本ともひこ先生を交え、仏教伝道協会の会議室で二次審査を行い、大賞および各賞の受賞作が決まりました。大賞の「しろくまがきたぞ!」は鬼ごっこを素材として、しろくまの変身がめくるという絵本の特徴を活かした効果的な展開となっていて、満場一致で大賞に決まりました。受賞各作品については、西本鶏介氏と藤本ともひこ氏の講評をご覧ください。
<第6回 こころの絵本大賞 講評>2021
西本 鶏介
絵の描き方はさまざまであっても何を伝えたいのか作者の思いがしっかりとわかる絵本でありたいものです、そのためにはまずはお話を完成させてから絵を描くべきです。長々しい文章の退屈なお話では単なる挿絵になってしまいます。ファンタスティックな作品であってもその世界が読者の共感できるものでないと説得力を持ちません。デッサン力のすぐれたユニークな絵本だけでなく、一枚一枚に力をこめた絵画的な絵本も見たいです。
<第6回 こころの絵本大賞 講評>2021
藤本 ともひこ
コロナ禍が日常になる中で、今年もたくさんの応募があり嬉しく思います。この騒然とした世界で、最後の場面まで粛々と描ききったみなさんは本当に素晴らしいです。こどもたちを喜ばせたいと果敢に挑んで走り切った自分を褒めてあげましょう。
で、いよいよ、ここから先の話になります。みなさん周知の通り、これは賞レースです。マラソンと違うのは、全てが技術点であるということです。そしてただゴールしただけでは入賞できません。これはマラソンと同じです。
西本先生はお話の完成度をすごく深くみています。ぼくは物語を的確に伝えるための、画面空間構成、めくりの呼吸、キャラクター、絵の認知性、色彩設計などをみています。編集長の波賀さんは、商業出版として耐えうるかどうかの判断のプロフェッショナルです。そして3人ともが共通して探しているのが「パッション」です。読み手のどこかに突き刺さる「面白さ」なのです。
最後に、選にもれた方も決して諦めないでください。的確に物語を伝えるための「言葉」。その物語を的確に伝えるための「絵」。この二つの融合から生まれる「感動」。という視点を持って、やり続けるしかありません。ぼくは今もいつも創作する時は、どうにかこの融合を掴み取るために必死にもがき続けています。しかし100点な作品なんてどんなにもがいたって無理です。その時その時の精一杯でやり続けているだけです。その繰り返しなんです。やりがいのある世界であります。こどもたちに面白い本を届けるために描き続けましょう。
優秀賞の「ツケモン」はごはんのようにおいしいと食べてもらえないつけものたちがいろんな味つけをして、つけもん丼になる話。庶民的で日本人ならだれもが納得できます。ユーモラスなマンガもこのお話にぴったりです。パン好きの人にはどうか。(西本)
味のあるめっちゃ昭和水彩アナログ漫画絵本。どこかほっとして笑えます。親近感はハンパないです。何より漬物が食べたくなる。漬物を応援したくなる擬人化作品。そういうパッションがあります。画面構成もめくりも独特。漫画のコマ割りを見開きにおおきく並べた感はあります。賞レースでは銀メダルですが、絵本としてはこういう世界はありなので、諦めないで道を探していいと思います。(藤本)
優秀賞の「おまめがっこうだいずぐみ」はだれもが親しめる絵本。豆学校を卒業したまめたちの擬人化がたくみで、みんな力をあわせておいしい醤油になるまでがいきいきと伝わってきます。豆一粒づつの表情も楽しい。(西本)
大豆たちが一致協力して醤油になるまでの、科学絵本的展開をベースにした擬人化作品。個人的推測だけど、リスペクトしている作家さんが調合され、ご本人の作風を形成して読み応えのある作品になりました。これはいい意味での調合です。みんな影響されて大きくなるのです。ただ、その影響の方がまだ強いかな。捉え込んだものをもっと熟成させて自分のものにして欲しいかな。これもPhotoshopデジタルですね。ちなみにぼくは、赤塚不二夫さん、手塚治虫さん、長新太さん、その他数多のリスペクト作家さんたちがブレンドされています。(藤本)
優秀賞の「ドキドキするぞしんぞうくん」はいささか乱暴な文字ですが大胆で奔放な筆づかいのエネルギッシュな絵に拍手をおくります。どきどき心臓を応援することばをとなえプロポーズするラストもびっくり。ただし、心臓は友だちではなく、自分のいのちでしょう。(西本)
この絵本は絵の勢いが命のガッシュゴリゴリアナログ絵画作品です。豪快な絵は奔放です。ただ見ようによっては図工教室的な絵に落ち着いてしまう感も否めない。たぶんこどもたちの表情がいつも同じ笑顔にしか見えないからかもしれません。絵から勢いは感じるけど「パッション」があまりでてこない。心臓くんの空ぞらしくも力強い何かは感じるんですけどね。こどもがドキドキした時の表情は本当にこれなのか。もう一歩踏み込んだら見えてくるものがきっとあります。(藤本)