受賞者インタビュー
Q. いままで絵本を書かれた経験はあったんですか?
A. 子どもが生まれてから絵本に興味を持つようになり、絵本に関してはこれまでに何度か描く機会がありました。イラストに関してはかなり長くやっていて、結婚前はデザイン事務所でイラストを描く仕事をしていましたし、結婚後もフリーでイラストを描いています。主に教育関係の子ども用の挿絵を描く仕事などを行っています。
Q. 絵本コンクールに応募されたことはありましたか?
A. 絵本に関してコンペに応募したことはあったのですが、コンクールに関しては今回が初めてでした。コンペの作品に関しては絵だけを描かせていただきました。
Q. 絵をどこで勉強されたのですか?
A. 専門学校でグラフィックデザインの勉強をしてましたし、子育て中に通信教育でも絵を学んでいました。
Q. こころの絵本大賞に応募した動機を教えてください
A. 以前から絵本を本格的に書いてみたかったんです。コロナの影響でイラストの仕事が少なくなり、ちょうどシナリオを考えることに集中する時間ができたので作品を応募させていただきました。
Q. 『がまぐちさん』のシナリオはどのようにして思いつかれたのですか?
A. 以前、お金をテーマに版画の作品を作る機会があって、そのときにがまぐちさんというキャラクターが生まれたんです。このキャラクターを使って話を作ってみたいと思ったのが最初のきっかけでした。実際にがまぐちを開けてみたところ、がまぐちの中って実は結構スペースが広くて、ここに温泉を入れてみたらという発想が浮かびました。あと、実家が商店をやっていたのですが、いまはその周りが寂しくなってきていて、そのようなところから『がまぐちさん』の街おこしのアイディアが生まれました。
Q. 今後の展望はありますか?
A. 今後も絵本を書き続けたいと思いますし、ぜひ作品を世に出していきたいと思います。
「第5回 こころの絵本大賞」審査経過及び講評
波賀 稔(鈴木出版編集長)
第5回「こころの絵本大賞」の応募総数は、昨年の応募数を大幅に超えて146編でした。締め切り翌日の9月1日と2日の二日間で第一次審査を行いました。応募作品のレベルは全体的に年々アップしているように思います。ただ、絵のレベルが高いものは文章の仕上がりがもう一歩、作がいいと絵のレベルが低いというアンバランスな作品が相変わらず多く、一次審査通過作品の絞り込みには苦労しました。絵本の文章は声に出して読まれるのが普通なので、一次審査では、応募作品を声に出して読みながら、審査を行いました。すると、読みづらい文章や、やたら長い文章、手書きの乱暴な文字で読みにくい作品などもありました。絵本は、読みやすさも考えて作品を仕上げてほしいものです。
一次審査を通して感じたことですが、家族の絆や友情、親子愛などを伝えたい気持ちはよくわかるのですが、それを直接的な言葉でつなげているに過ぎない作品が多かったように思います。そのテーマを創作のストーリーにしなければ絵本にはなりません。
また、それぞれの作品の最初のシーンは、登場人物が手をつないで正面を向いているという構図、登場人物の紹介や作品の紹介がなんと多いことか。紹介はストーリーの中で端的に行って、すぐに本筋にはいったほうがリズムよく展開できます。そして、年配者の作品に多いのが、ご自身の人生を語る絵本です。それはそれで悪くはないのですが、今の子どもたちにも伝わるような内容にしてほしいと思います。「こころの絵本大賞」の応募規定をよく理解し、誰かに読んでもらう絵本は、作者の自己満足ではいけません。もっともっと絵本としてレベルの高い争いができるといいですね。今年はまた、新型コロナを題材にした作品もちらほらありました。
そうした146編の作品の中から、一次審査では20作品を選び、9月14日に、児童文学者の西本鶏介先生、絵本作家の藤本ともひこ先生、そして、編集者の波賀が、仏教伝道協会の会議室に会して最終審査を行いました。そして、大賞に輝いたのが「がまぐちさん」です。絵、文ともにレベルの高い作品でした。シャッター街となりかけた商店街を復活させるという現代的なテーマも良かったと思います。おしくも、優秀賞となった「らいふ」は、シンプルな絵本であり、メッセージが伝わる絵本でしたが、メッセージ性の強さが、災いしたかもしれません。「のどぼとけ」はデッサン力の優れた作品で、ユニークな展開でした。やや、大人っぽいところが大賞を逃してしまいました。創作民話風の「まつりのひに」も高評でした。各賞の講評は、西本先生、藤本先生が詳しく述べられていますので、ご覧ください。
<第5回 こころの絵本大賞 講評>2020
西本 鶏介
どんなお話であろうと「こころの絵本」が求めるテーマがきちんと伝わる作品でありたいものです。長々しい文章に絵をつけただけのものは、絵本として表現することの意味を忘れた作品といえます。いつも感じることは、絵はともかくお話づくりが弱い。どうしても類型的な発想になりがちです。絵を描くだけではなく、すぐれた童話を数多く読んでほしいものです。
<第5回 こころの絵本大賞 講評>2020
藤本 ともひこ
「絵本」って面白い。絵と言葉を駆使しての総合表現。やろうと思えば鉛筆と紙があればなんでも表現できる。こんな面白いことはない。だから人は描き続けるのでしょう。
ここに応募したあなたも、そんなことに魅せられたひとりだと思います。しかしです。おもっていることを、いざ紙の上に並べてみようとすると、あら困った。なかなか思うようには、出現させられないことに、はたと気づきます。実は、どんな創作も、そこからがスタートなのです。不可思議なことに、どんなに学んでも、どんなに考えても、どんなに技術を磨いても、出現してくれません。ところが、ある日突然、ぽろっと出たりするのです。一部だったり、全体だったり。そんなときを我がものにするためには、どうすればいいのか。実は皆目わかりません。ただひとつ言えることは、最後まで諦めずに思い続ける。それだけです。
こんな時代の真っ只中で、もがいたり、楽しんだり、笑ったり、泣いたりの試行錯誤右往左往の作品が集まりました。最後まで描き切って応募したというだけで、ひとまず拍手を送ります。
優秀賞の『らいふ』はいのちとはなにかを絵本というスタイルでシンプルに表現した作品。短いことばに輪郭のはっきりした線と鮮明な色の絵が一気に目へとびこんできます。デッサン力にすぐれた絵も効果的です。タイトルは「らいふ」ではなく最後の頁のことば「いのちはめぐる」の方がいいと思いますが。(西本)
「いのち」について、シンプルに対比法で語りかける絵本。そういう意味では、読みやすく、ビジュアルも適切でした。
ただどこか当たり前で終始しました。
一般論ではない作者自身の生々しい具体的な命を感じる場面が欲しかったです。綺麗な道徳教科書にもみえます。
ぼくにとって絵本は、具体的な目の前のパッションを落とし込むものだと思っています。
もう一歩踏み込んでみると、見えてくるかもしれません。
でも、大事なとこはそこなんです。(藤本)
優秀賞の「まつりのひに」は昔話風のわかりやすいお話で、唄のうまい主人公と鬼の子や地蔵との交流が楽しく描かれています。いささかクラシックなお話であっても絵本にふさわしいお話づくりで、文章にもムダがありません。おおらかで色づかいのたくみな絵もお話にぴったりです。登場人物の着物を織物柄にしたセンスを買います。(西本)
和風の絵のテクニックは美しくて、原画は飾りたいくらい。お話は創作昔話の王道的展開です。が。主人公がもっと困ったり、もっと主人公の能力で解決に結びついたりの山場が欲しかった。
お話は一応の起承転結で作れます。
ですが、読者がまた読みたいとか、もっと読みたいと、 作者に惚れるには、もっと大きくて深い物語が欲しいのです。
あと、もう一押しです (藤本)
優秀賞の「のどぼとけ」は一人で生きることの大切さを淡々と語りかけるメッセージ性の強い作品です。いきなりおじいちゃんの死から始まり、火葬場でのどぼとけを取り出すところから展開するリアルなストーリーですがしっかりと胸にひびきます。白黒だけの絵であってもたくみな筆づかいで、どの場面も臨場感があります。(西本)
おじいちゃんの遺骨の「のどぼとけ」という着眼点とセレクトしたモノクロの鉛筆画は面白いなと思いました。また表紙がほぼ遺影という大胆さには驚きます。しかし、おじいちゃんの教え、誰にでもあるのどぼとけ、大切ないのち。
それらテーマがバラバラに並ぶだけなので、まとまりに欠け、物語も唐突に終わる感じでした。
物語の整理が必要です。多くを語り切らなくていいのです。そこをこそ。(藤本)