受賞者インタビュー
インタビューは、はっとり ひろきさんの個展会場で行われました。
Q. いつ頃から絵本を描くようになりましたか?
A. 僕は小さい頃から絵を描くことが好きでした。10年くらい前に、妻が子供に毎晩絵本を読み聞かせしているのを見て、自分で絵本を描いてみたいと思いました。作った絵本を家族に見せると喜んでくれました。何作か作っているうちに本格的に絵本のことを勉強したいと思い、2016年に子どもの本専門店メリーゴーランドの絵本塾に通い始めました。そこでは毎回みんなで絵本のラフ本を回し読みして、その後講師に講評してもらうというものだったのですが、とても勉強になりました。そこで基本的な絵本の描き方を学びました。
Q. 作品のシナリオはどのように考えるのですか?
A. 実は子供の頃は、ほとんど絵本を見ていませんでしたので、型にはまらず自由な発想で描いているという面では、それがプラスに働いているのかもしれません。
普段から、これが動き出したらどうなるのかな?ということなどを想像しています。
Q. 今回の作品はどのようにして作られたのですか?
A. 今回の作品は、自分に自信の無いひよこが、いろいろな動物の立派だと思う部分を借りて、想像の世界の中で自分にくっつけていくというお話しなのですが、最初は、いじわるなきつねが、主人公でした。主人公の気持ちを開放してあげられるような展開にしたかったので、ひよこのストーリーになりました。
Q. 他の人に認められたいという「承認欲求」がテーマになっていると思うのですが?
A. 承認欲求もあるのかもしれませんが、それよりも、「自己肯定感」というものかもしれません。他の人をうらやむような、劣等感はどこから来るのか、それは自分の見かたによって変わってくるのかもしれません。それは仏教にも通ずるところでしょうか。
Q. この作品を描き上げての感想はいかがでしたか?
A. 賞をいただいてから、出版社さんとのやり取りの間、一時的に手元に原画が帰って来ました。それが終わり、再度手元から離れる時、この原画(ひよこ)とのお別れだと思うと、とても寂しくなったのを覚えています。そのときに、この作品に対する「愛情」に気がつきました。作品に対するそのような「思い」が、読者に伝わってくれたら嬉しいです。
Q. 今後はどのような作品を描いていきたいですか?
A. 僕は、とにかく楽しい絵本を描きたいのです。ストーリーもそうですが、観ていただいた子どもも大人も笑顔になっていただけるような作品を作っていきたいです。
「第3回 こころの絵本大賞」審査経過及び講評
波賀 稔(鈴木出版編集長)
「こころの絵本大賞」第3回目の総応募数は75作品でした。昨年とほぼ同じ応募数でしたが、全体的には作品レベルが上がっているように思われました。とはいっても、絵は合格ラインに達していても、作がいまひとつという作品が多く見受けられました。絵本は画集ではないので、ストーリーがとても重要です。
一次審査は、9月4日と5日の二日間で行い、すべての作品に目を通しました。どこかで見かけたようなストーリー、意味のない擬人化をした作品、独りよがりの展開、単なる日記にすぎない表現、大人目線の作品などの中から、作・絵ともある程度のレベルに達していると思われる20作品を選び、9月25日に、西本鶏介氏、藤本ともひこ氏を交えた最終審査を行いました。
秀でた作品はなかったものの、テーマがわかりやすいことと、絵がユニークであることなどで、大賞受賞作品が決まりました。優秀賞3作品に大差はなく、それぞれの作品についての講評は、西本氏、藤本氏の講評をご覧ください。
ところで、応募作品全体を通して、文章への意識が低いのではないかという作品が多く見受けられました。次回応募の際は、絵を何度も描き直すように、文章ももっと練って欲しいと感じます。何度も何度も言葉に出して読み、スムーズな流れの文章を作ってほしいと思います。
<第3回 こころの絵本大賞 講評>2018
西本 鶏介
どんなに絵がすぐれていても、ストーリーが類型的では絵本にする意味がありません。
まずはお話として読者の共感を呼ぶものであってほしい。自分の絵本をかく前にたくさんのすぐれた絵本に目を通すことです。いつも思うことですが絵はともかく、まずはお話づくりに力をいれてください。
<第3回 こころの絵本大賞 講評>2018
藤本 ともひこ
全体的に、ブラッシュアップすれば、もっとよくなるものがいくつもありました。
でも、そのブラッシュアップこそ作家性なので、誰かが代わりにやるわけにはいきません。
自分で、そのセンスを磨くしかないのです。
みなさん自身のブラッシュアップに期待します。
じつは、そこんとこが最もたいへん険しい道です。が!やりがいはあります。
どうにか歩み続けて、この世界に面白い絵本を生みだしてみてください。
こどもたちは、待っています!
「ふわふわ ふんわり」なにをいいたいのかわかりづらいけれど、心がなごむ、あたたかくてシンプルな作品です。(西本)
ウインザー・マッケイの「リトル・ニモ」はベッドで冒険にでかけます。
この絵本では、ふとんで旅にでます。
ふとんのフワフワ感のシズル感たっぷりの絵本で、幸せ感もたっぷりです。
たぶん、ちいさなこどもたちが、みたら嬉しくなるんだろうと思います。
とはいえ、夢オチじゃないのを、ぼくは見たかった。
そこまで、かけたらぐっと面白くなった。そこですね。(藤本)
「ボクをたべてくれませんか」善意のがまんくらべは気になるけれどデッサン力のすぐれた印象深い作品です。白黒場面が多く、もう少し色をつかってみたい。(西本)
綺麗なレイアウト。白と黒の世界に、差し色が入るのは、
東君平さんの系統としても美しい。
命の連環を託したストーリーは。好感が持てます。
とはいえ、具合の悪いみんなのとこにも、
それぞれ、木の実が飛んできたらいいのに。と思っちゃった。
そんな木の実があるのなら、ひとつじゃないよね。
みんなが、救われてほしかった。
ちょっと、考える価値はあると思います。(藤本)
「千吉山」なんともにぎやかでマンガみたいに楽しい作品です。まるでお笑い風のストーリーですがラストの数行は不要。(西本)
おばかなコンビの掛け合いは抜群に笑った。じつに面白かったです。
癖のある絵も、細部に渡って楽しんで描いていました。
とはいえ、物語展開に無理があって残念。ゾウの件ですね。
絵の一枚たりとも、言葉の一言たりとも必然性がないといけません。
特に、最終見開きの楽屋落後書きはいらないのです。
それらの点を、シビアに考えてみてください。
でも、ぼくはいちばん面白かったんです。そこは自信を持ってください。
(藤本)