受賞者インタビュー
Q. いつごろから絵本を描くようになりましたか?
A. だいたい20年位前からです。もともと美術系の短大を出て、舞台美術のデザインやセット設営などの仕事をしていました。子育て中はそれらの仕事を出来なかったのですが、子供に読み聞かせるうちに絵本が大好きになりました。個人的には長新太さんの絵本が好きですね。絵本の魅力は絵やシナリオなど多くの要素を総合的に含んでいるところにあると思います。
Q. 「こころの絵本大賞」への応募の動機を教えていただけますか?
A. 毎年、どの絵本大賞に出すか考えたりするんですけど、8月はほかに絵本大賞の予定がなくて、「こころの絵本大賞」に出そうと思いました。
Q. 作品の設定はどのようにして思いつきましたか?
A. わたしは主人公と同じようにお参りの長い子で、よく欲張りと言われました(笑)。それで、それを元に仏壇という日常の場所から願い事がどんどん広がって宇宙にいくという設定はおもしろいかなと思いました。そして、脚本家の知り合いに見せたところ、ラストがこどもらしいお願いで日常に戻るのがよいのではないかとアドバイスされてこの作品が完成しました。
Q. 作品を書く上での苦労談はありますか?
A. もともとこの作品のラフは3年前にできていたんです。ただ、応募する際に一から書き直しました。実はオリジナルの作品は神社にお参りするという設定だったのですが、それはさすがに仏教にしなきゃまずいなあと思って・・・笑。そこで、近所の神社やお寺に取材に行って、ストーリーが大丈夫かどうか確認をとりました。
Q. 絵本ができるまでの苦労談を教えてください?
A. 鈴木出版の編集長さん(審査員の波賀稔氏)が非常にやさしくて、楽しく作業をすることができました。
Q. 絵本が出版されてから何か変わりましたか?
A. 大賞を取った結果、いろいろな人にも会いやすくなりましたし、小学生新聞の連載など、仕事の幅がひろがりました。また、絵本を書いていても家族から白い目で見られることがなくなりましたね(笑)。出版された絵本は書店には出回らないですけど、たくさんの部数が出ることがこの絵本大賞の大きな魅力だと思います。個人的なお坊さんの知り合いがいて、その方から「日本全国にはすごい数のお寺がありますので、そういう関係で配布されれば、書店に置かれるよりもたくさんの人に読んでいただけますよ」と言われたのですが、絵本が3万部以上(2017年12月時点)出ている現状を見ると、本当にそう思います。
「第1回 こころの絵本大賞」審査経過及び講評
波賀 稔(鈴木出版編集長)
全部で159作品の応募があり、9月6日、7日の二日間で全作品について一次審査を行いました。
一次審査では、お話(文章)と絵の双方が優秀であることと、絵本としての発想や展開がユニークであること
を基準にして、まず32作品を選び、さらにその中から審査員の協議により、15作品に絞り込みました。この
15作品を、一時通過作品として、9月12日に最終審査を行いました。
最終審査では、提出していただいた原画も参考にしながら、印刷効果や絵本としての構成力なども加味し、大
賞1点、優秀賞3点、佳作5点を選考しました。
応募作品の中には、主催者を意識して、仏教的要素をとってつけたものや、応募規定に沿っていないものも見
受けられました。大人向けのものや未完成ではないかと思われる作品もありました。全作品を丁寧に見て、「子
どもにこころのたいせつさを伝える」絵本として印刷物にするという観点から審査し、テーマを織り込みなが
ら、絵本としての質を高めたものが最終審査に残りました。
大賞の『ぼくのおまいりがながーいわけ』は、題材としては仏教を意識したものですが、これは日本の社会では
一般的な風景であり、ご先祖様をお参りするという行為そのものに、思いやる気持ちが込められていて、絵本
的にも完成度の高い作品でした。
優秀賞の3作品もそれぞれ絵の質が高く、内容的にも心に残る作品でしたが、やや盛り上がりに欠ける点で、
大賞作品に一歩譲ったという結果になりました。
各作品については、藤本ともひこ審査委員が絵本作家の立場からの講評をご覧ください。
絵本は、お話と絵があり、めくっていく冊子です。前の画面を受けて次の画面へと展開していきます。たくさん
の絵本を見て、読んで、絵本の形式を念頭に入れ、自分のオリジナル作品を作ってほしいと思います。
「第1回こころの絵本大賞」 講評
藤本 ともひこ
「絵」+「お話」が絵本。
でも、それだけじゃ、こどもたちの心には残らない。
そこにプラス「マジック」がかからないといけない。
それは「面白さ」「サプライズ」「強烈キャラクター」「笑い」「涙」だったり。
それが、絵本を読んだこどもたちのこころにひっかかる。
そして、今回は「こころ」というテーマがある。
かといってテーマだけを気にしてしまうと、こどもが不在になったりする。
いろいろたいへんだ。でも、だからこそ、やりがいがある。
こどもたちが喜ぶ絵本ができたときは、本当に踊りだしたくなるくらい嬉しい。
そのために、なにがなんでも日々描き続けるのが、絵本作家。
大賞は3拍子のバランスがよく受賞。優秀賞は3拍子のどこかが惜しかった。
佳作はどこかひとつに花がある。
何度も言うようだけど、「絵」と「お話」だけでは、不特定多数の読者をつかむ絵本にはならない。
そこに、あなただけができるマジックがかからないといけない。
どんな作家だって、そのマジック探しは永遠のテーマだ。
たくさん失礼なことも述べたかもしれない。
が、これもひとつの意見としてお許し願いたい。
なかなか、こんなことを言ってくれる人は、そうそういません。
でも、安心めされよ。こういう私見を平気でスルーした独自路線で、十分読まれている作品もたくさんあるか
ら。
マジックはどうやってかかるかは、誰にも分からないからだ。
この意見を活かすもころすも、自分自身。
いちばん分かっているのは、じつは自分なのだ。
では、みなさんの今後の飛躍をお祈りします。なんであれ、面白い絵本で、日本のこどもたちを笑顔にしてほ
しい。
お互いがんばりましょう。
超能力を絵本に引きずり込んだところが新しい。
ただ、超能力をべつに普通に受け入れる素養のもともとあるこどもた
ちにとっては、そんなに「サプライズ」ではないのが、おしいところ。
散らかったものを片付けるに留まらないちょーちょー超能力がある
と、それがサプライズになったはず。そこまではなかった。
こどもたちの期待するデフォルメが過ぎるくらいのサプライズが読み
たかった。
絵は可愛くて綺麗で好感が持てる。お話をあと一歩先に。その先に
きっと答えがある。
絵が達者。しかし「挿絵」になってしまった。
言葉に寄り添う絵ではなく物語る絵がみたかった。
すべての絵が写真のように綺麗な水彩タッチ。
お話は家族の人生をよどみなくたんたんと語り切る。いい話だ。着物の赤い布が、絆のように次世代につながってゆくという静かな家族のエピソード。
そういう意味では、きちんと成立している良品。
ただ絵が静かすぎた。もうひとつ事件がほしい。結果たんたんとした大人目線の絵本になった。
アルツハイマーのおばあちゃんと、孫兄弟のお話。
そんなおばあちゃんを嫌悪する兄が、理解するまでを描き切った、今
の時代に大切な作品。
しかし、話はありがちな展開に留まった。
やはり事件がもう一声あると、お話としては盛り上がった。
そこまでみせていただきたかった。ちょっとくだけた水彩タッチで、
好感がもてるだけに、おしい。
「うみのうた」は切なくて愛しくて素敵だった。
絵がコミック的で可愛い。誕生日プレゼントを届ける可愛い話かなとおもっていたら、トンボ君が唐突に死ぬ。テーマはここに力点があったのだった。
ちょっとショック。テーマを描くあまり、そこから急に世界がかわってしまう。わくわくする話ではなかったという落胆の方がおおきいのが残念。
墨絵の迫力が素晴らしい。
しかし絵本としては未整理。
さるたちのより騒がしい様を絵だけでストイッ
クに表現して、言葉をもっと削って整理した
ら、すごい絵本になる可能性はある。
「おもいやり」という言葉を使わずに、いかに「おもいやり」をみせるかが、絵本作家の腕のみせどころ。そこを踏み込んでほしい。前半はすんなり読めた。独特の絵の具画法はとっても素敵。
唯一の低年齢対象絵本。絵も適度に優しくて、お話も優しい。優しすぎるのか、既視感のあるお話と絵の感じがマイナスした。この路線はもうかなりあるので、参入するのはハードルが高い。まして肝心のマジックがかかっていなかった。そこを探ってみてほしい。
主人公がおじいさん、おばあさんでよかったのか。「ミッシングピース」絵本。ではあるが、もっと、こどもたちが共感できる主人公がよかった。より夢と希望のあるエンディングが、ぼくはこどもの絵本にふさわしいとおもう。絵は油絵として味わいがある。